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RecSys2021学会参加報告記事

 こんにちは。エクサウィザーズで構造化データギルドに所属し、機械学習エンジニアかつエンジニアリングマネージャーをしている小野です。本記事では2021年に推薦システムの国際会議にヴァーチャル出席しましたので(本当はアムステルダムに行きたかったです。)、一部の内容を共有させていただきます。

概要

f:id:oimokihujin:20220407045453p:plain  今回は、オランダのアムステルダムで2021年9月27日から10月1日までバーチャル&オフライン開催された推薦システムの国際会議であるRecSys2021*1に参加したので、内容を記事にさせていただきました。皆様がご存じのように、推薦システムはすでに私たちの生活に切っても切り離せない存在です。Amazonなどのオンラインストアで商品を眺めていると、隣に出てくるオススメ商品をクリックしてしまうことなどはないでしょうか?それらは皆様の行動履歴や商品分類など様々な情報を駆使し、適切なユーザーに適切なアイテムを推薦することによって、ユーザーの意思決定(この場合は購買意欲)を促進します。

 RecSys 2021の開催で16回目の開催となります。RecSysは4日間の日程で多くの本会議(下図は本会議の日程)と多くのワークショップなどから構成されており、非常にボリュームがある会議となっております。また、本会議とワークショップが同時に開催されており、全ての会議に同時に出席することはできません。しかし、コロナの影響前からRecSysはYoutube*2で会議内容を発信しており、当日に参加できない場合でも、後日会議内容を確認することができます。RecSys2021も同様に開催後半年を経て会議内容がYoutubeに公開されているので、当日参加できなかった人も現在は確認することができます。

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ワークショップから見る会議の全体感について

 多くの推薦システムの根幹となる技術は機械学習です。昨今、機械学習でも話題となっていることは、推薦システムでも同様に話題となっております。大きな話題の一つとして、機械学習の社会的責任性が挙げられます。この社会的責任性は、公平性、透明性、責任性となります。それぞれを簡単に説明すると、公平性は、誰が使っても不公平ではない推薦結果を出すことができるかに焦点が当てられています。例えば、クーポン配布推薦システムを構築する際、たまたまデータセットの大部分が男性だった場合、男性に偏ったクーポン配布が実施されてしまう可能性があります。透明性はその名が示す通り、推薦システムが推薦した理由が明確にわかる必要があります。例えば、推薦システムがある男性にコーヒーを推薦した場合、その理由を明示する必要があります。責任性は、推薦システムの責任性を示します。例えば、健康器具を推薦するシステムがあるとします。この健康器具を推薦しするシステムが腰痛持ちの人に腰痛を悪化させるような推薦をしてしまい、結果としてユーザーが腰痛を悪化させてしまった場合、推薦システムがどうしてそのような推薦をしたのかを明らかにしなければなりません。

 RecSysでは、推薦システムの社会的責任性を議論するためのワークショップを開催しており、FAccTRec: Workshop on Responsible Recommendationで中心的に議論されています。このワークショップは5年目であり、比較的新しいワークショップであることがわかります。オーガナイザーには産総研の神嶌先生*3の名前もあります。

各ワークショップについて

 各ワークショップでは、発表タイトルが4〜8つ程あり、それぞれが15分ほどの発表時間を持ち発表する形式でした。ここではいくつかのワークショップの概要を説明し、言及したいワークショップについては少し詳しく説明したいと思います。

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  1. CARS: Workshop on Context-Aware Recommender Systems
    1. 次世代コンテキストアウェア推薦システムを議論するためのワークショップです。ここでいうコンテキストアウェアとは、ユーザーやアイテムの付帯情報を指します。具体的には、ユーザー特徴量(性別・住所・年齢・など)やアイテムの特徴量(カテゴリ・値段・色など)を指し、これらの情報に加えて、あるユーザーがあるアイテムを購入した情報(購入履歴や閲覧履歴など)を用いて推薦システムを構築します。
  2. ComplexRec: Workshop on Recommendation in Complex Environments
  3. FAccTRec: Workshop on Responsible Recommendation
  4. FashionxRecSys: Workshop on Recommender Systems in Fashion and Retail
  5. GReS: Workshop on Graph Neural Networks for Recommendation and Search
    1. グラフベースのモデルを用いて推薦システムを議論するためのワークショップです。グラフベースのモデルとは、知識グラフなどを用いた推薦システムを指し、アイテム-アイテム間、アイテム-ユーザー間、ユーザーーユーザー間などに存在する関係を明示的に取り扱うことができる推薦システムです。グラフベースのモデルを使うことによって、より高次の情報(商品A→購入者B→商品C→購入者Dなど)や関係を取り込むことができ、精度の面で優れているとされています。
  6. INRA: Workshop on News Recommendation and Analytics
  7. IntRS: Joint Workshop on Interfaces and Human Decision Making for Recommender Systems
    1. 推薦システムの精度やモデルを議論する場ではなく、デザインやインターフェースを議論するワークショップです。例えば、推薦システムで20位までのオススメ商品の結果を表示する際に、2ページで表示する際に1ページ目と2ページ目でバイアスが含まれてしまうなどの弊害があります。また、ユーザーが推薦結果に納得感を得るためのインターフェースが紹介されていました。
  8. KaRS: Workshop on Knowledge-aware and Conversational Recommender Systems
  9. MORS: Workshop on Multi-Objective Recommender Systems
  10. OHARS: Workshop on Online Misinformation- and Harm-Aware Recommender Systems
    1. 間違った情報や人を傷つける情報を察知する推薦システムを議論するワークショップです。SNSなどの情報発信ツールが普及する現在では、間違った、または他人を傷つけるようなコンテンツなどの普及速度も非常に早くなっている。このようなコンテンツをいち早く検出し、他人に推薦しないようなシステムの構築を目指します。特に、現在のcovid-19が流行っている世の中では正しい情報をなるべく早く広めるためにもこのような推薦システムが重要となります。
  11. ORSUM: Workshop on Online Recommender Systems and User Modeling
    1. オンライン推薦システムを議論するワークショップ。ニュースの記事やコメントやユーザーのフィードバックなど、時間が進めば進むほどユーザーに対するコンテキストや情報が蓄積していきます。それらの新鮮な情報をいち早く取り入れ、より良い推薦システムを構築することで、「あの時」は欲しかったのに、「今はもういらない」とならないように「その時」欲しいものを「その時」推薦するシステムの構築を目指します。
  12. PERSPECTIVES: Workshop on Perspectives on the Evaluation of Recommender Systems
    1. 推薦システムの評価に注目したワークショップ。
  13. PodRecs: Workshop on Podcast Recommendations
  14. RecSys Challenge Workshop
  15. RecSys in HR: Workshop on Recommender Systems for Human Resources
    1. 人事部門に関する推薦システムに関するワークショップです。PWCによると、国際企業のHR機能の40%以上がAIアプリケーションを使用しているらしく、特に、優秀人材のスクリーニングなど簡易的に評価するために用いられることが多いそうです。そのような場面では個人に関わる非常にセンシティブなデータを使用するため、推薦システムの社会的責任性が重要となります。
  16. RecTour: Workshop on Recommenders in Tourism
  17. SimuRec: Workshop on Synthetic Data and Simulation Methods for Recommender Systems Research
  18. XMRec: Workshop on Cross-Market Recommendation

参加しての所感

 本記事ではそれぞれの内容の詳細に触れるのではなく、RecSys2021のワークショップに焦点を当てて参加報告を記しました。会議内容の詳細はYoutubeで確認することができるので気になる点を重点的に確認していただくと理解が深まるかと思います。RecSys2022はシアトルで開催されることが決まっています。コロナの状況にもよりますが、次回は現地参加できればと思います。